2009年07月09日

虱と戯れる?

   良 寛 の 恋 パート⑥        工藤 美代子著


 ★五合庵とくらし

 ある日五合庵から二里ほど離れた、茶屋の亭主太郎兵衛爺さんが、字を書いてほしいと良寛を訪ねた。

「良寛さんゐさっしゃるかの?」と垣根の外から声を掛けると、良寛は庵室の縁側の日当たりのいいところに出て、帯を解いて着物を広げていた。
何をしているのかと思えば、着物の裏の縫目を這っている虱をつまんでは、それを縁側に広げた白紙の上に一匹づつ移して、虱が右往左往するのを楽しそうに眺めている。

虱を並べて歩かせて競走させて、どちらが早いかを見ては悦に入っているのだ。
なんということをしているのか、いくら退屈だといっても、それはちょっと酔狂が過ぎると茶屋の亭主は声を掛けた。

 そこで初めて良寛は客人に気がついた。
「おやおや、太郎兵衛どん、お前さまはまあいつの間にござらした?暖かなえい陽気になったで今日は国上寺さまへお参りにでもござらしたか、まあ、兎に角お前さまもここへ来て掛けさっしゃれ」と愛想よく答えた。

 良寛は自分のやってることを、少しも恥ずかしいと思っている様子はなかった。
相変らず帯を解いて、痩せて萎びた腹と胸をむき出したままで、縁側に胡坐をかいている。太郎兵衛は呆気にとられて、その姿を見ていた。

 すると良寛は「わしも、そろそろ店をしまふことにしませうわい」 といって、居住まいを正した。
まだ驚いている太郎兵衛を前に、良寛は紙の上に這わせていた虱を一匹ずつつまみ上げて、それを自分の煮物に戻すのである。

 「良寛さま」 と思わず叫んだ。
「お前さまは又何をさっしゃるだ、そりゃ虱ぢゃないかの」

 しかし、良寛は平然としている。
「これもわしの友達さ、折角からしてわしをたよって居てくれるものを、お前さまどうしてこれが殺せるものかの」そういいながら、とうとう良寛は一匹残らず虱を自分の着物に移して、それから着物を着て帯を締めた。

 もはや太郎兵衛は何もいえずにみつめていた。と。

<何と心の優しい?良寛だろう・・・あきれるばかりだ。
 今の人たちは虱なんて見たこともないでしょうね、終戦まじかの疎開先で虱に悩まされた方もあると思いますが、もう遠い昔のことですね。

 良寛はこんな歌も。

「のみしらみ音に鳴く秋の虫ならばわがふところは武蔵野の原」

 今日の花










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