2011年06月15日

紅蓮の女王③

     レイプされた?

 蘇我馬子の父親は稲目で、二人の娘を妃として入れている。
蘇我氏の勢力は、先代の欽明大王時代すでに他の豪族をしのいでいた。
この稲目の二人の娘は、姉、賢塩媛(きたしひめ)、妹、小姉君(おあねのきみ)といい炊屋姫は姉の娘である。

 一方小姉君の子、穴穂部皇子は神経が粗野で感情が激しく単純な性格で、炊屋姫に思いを寄せている。
そんな皇子を姫はすごく嫌っていた。

 それは昨年の秋のこと、長い間敏達大王が病気がちのため、孤閨をかこっていた炊屋姫は、穴穂部皇子に誘われて乃楽山(ならやま)の方に紅葉を観に行った。
疲れたので途中穴穂部皇子の屋形で休息したが、その時酔った穴穂部に犯されたのだった。
 その時なぜ大声で人を呼べなかったのか、と思うと胸が暗くなる。
あの瞬間姫は、酒臭い息を吐いて襲い掛かる穴穂部に抵抗しながら、本能的に様々なことを考えたような気がする。

 先ず考えたのは、こんなところを舎人や宮廷の女官たちに知られては恥だ、と言うことだった。
次にことが公になれば、自分に思いを寄せている穴穂部がどうなるのか、と思ったようだ。
 《当然死罪だよね・・皇后を犯したんだからね》

その時まで炊屋姫は、穴穂部が別に他意はなく、自分を想っていると信じていたのだった。
だから抵抗はしたが声をあげなかった。  《ホントかな、空閨に耐えかねていた思いを癒していたのでは?》

 結局炊屋姫は穴穂部に身を任せてしまったのである。
                 
                                 つづく



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