淡い恋心

 炊屋姫は敏達天皇の最初の皇后、広姫が亡くなって翌年皇后になった。
敏達との間に七子をもうけ、寵愛された。
竹田皇子、尾張皇子、のほか五人の皇女を。

585年に蘇我馬子は大野丘に仏塔を建てた、この行為はまさに排仏派物部守屋に対する宣戦布告である。
飛鳥の人々は騒然となった。
この頃すでに敏達は病床に伏していた、寝たり起きたり、という。

 敏達の宮を守っていたのは、三輪山の豪族三輪君逆であった。
彼はまだ三十半ばだが大王家の忠臣で、敏達と炊屋姫の信頼が厚かった。
ことに炊屋姫は凛々しい武人の彼に好意を抱いていた。
これは三輪君逆も同じ気持ちだが相手は皇后であり、近寄りがたい存在である。
彼は自分に好意を寄せてくれている美しく神秘的な感じの炊屋姫に、密かに思慕の念を抱いてた。

 これは彼一人だけではない、炊屋姫には伯父にあたる馬子、それに異母兄弟の穴穂部皇子もそうであった。
ことに穴穂部皇子は、炊屋姫を口説いて、なんとかして次期大王の地位を得ようと、このところ宮廷に入りびたりだ。
時に炊屋姫は三十歳である。
                   つづく





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